オンライン診療システム導入PMの仕事。制度対応と業務フロー再設計
- オンライン診療PMの仕事は、指針・診療報酬・本人確認という3つの制度要件を院内業務フローに落とし込む調整が中心になる。
- 電子カルテ連携を含む導入は体感6〜9か月、単体SaaS導入は体感3〜4か月と、連携範囲が工期を左右する傾向がある。
- 向いている人は、医師の診療スタイルを尊重しつつITベンダーと院内運用の橋渡しができる調整型の実務経験者である。
「オンライン診療って、結局ビデオ通話アプリを医療機関に入れるだけの話じゃないんですか?」
転職相談の場でこう聞かれることがよくあります。僕の答えはいつも同じで、「ビデオ通話の部分はむしろ簡単なほうです」というものです。オンライン診療システム導入PMの本体は、厚生労働省の指針が定める本人確認や診療の適否判断、診療報酬上の算定要件、電子カルテ・電子処方箋との連携という制度側の制約を、外来の受付から会計までの業務フローに落とし込み直す作業にあります。この記事では、その実務の内容と、PMとして何を問われるのかを、体感値も含めて整理します。
0. オンライン診療PMという仕事の範囲
オンライン診療システム導入PMは、大きく分けて2つの現場で発生します。ひとつはベンダー側でオンライン診療SaaSを開発・提供する立場、もうひとつは医療機関側で導入・運用定着を担う立場です。求人としては後者、つまり病院・クリニックまたは導入支援を行うベンダー常駐PMとしての募集が中心で、この記事では主にその立場を前提に説明します。仕事の範囲は要件定義からベンダー選定、院内フロー設計、スタッフ研修、稼働後の運用改善まで一通りに及びます。単発のシステム導入ではなく、診療という業務そのものの一部をオンライン化する仕事だと捉えるのが実態に近いと僕は考えています。地域医療構想の推進もあって、単独クリニックだけでなく複数施設が関わる導入案件も増えつつある領域です。
1. 制度対応:指針・診療報酬・本人確認という3本柱
1-1. オンライン診療の適切な実施に関する指針
厚生労働省が定める「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は、初診と再診で許容される疾患・状況の違い、緊急時の対応体制、通信環境のセキュリティ要件などを規定しています。この指針は改定を重ねているため、PMは最新版を必ず確認したうえで要件定義に反映する必要があります。指針の要求事項をそのままシステム仕様書に翻訳する作業は、医療知識とIT要件定義の両方が必要になる、この仕事らしい部分だと感じています。
1-2. 診療報酬上の算定要件
オンライン診療には診療報酬上の算定条件があり、対象疾患や対面診療との組み合わせ回数などが定められています。この上限回数は予約システムの制御ルールにも直結するため、事務部門・医事課との対応表づくりが欠かせません。この要件を満たさない運用フローを組んでしまうと、せっかく導入したシステムが算定できず、医療機関の収益に直結する問題になります。PMは診療報酬点数の細部まで覚える必要はありませんが、システムのどの機能が算定条件のどの部分を満たすのかを整理し、医事課と共有する役目を担います。
1-3. 本人確認と処方薬の取り扱い
オンライン診療では対面と異なり、患者本人であることの確認と、処方薬の受け渡し方法(オンライン服薬指導・配送等)の設計が必要です。ここは電子処方箋の仕組みとも接続する部分で、確認方法(保険証・マイナ保険証・本人確認書類の画面提示など)をどこまでシステムに組み込み、どこを受付スタッフの運用で担保するかの線引きが、PMの実務判断として重くなります。
2. システム構成と院内業務フロー設計の実務
まず業務フローの骨格を書き出すと、次のような流れになります。
- 予約受付(オンライン予約フォームまたは電話)
- 事前問診(症状・服薬歴の入力)
- 本人確認(保険証・マイナ保険証等の画面提示確認)
- ビデオ診療(医師による診察)
- 処方・会計(電子処方箋発行、オンライン決済)
- フォローアップ(次回予約案内、服薬指導の記録)
導入パターンは大きく3つに分かれ、それぞれPMの役務と体感の導入期間が変わります。
| 導入パターン | 特徴 | PMの主な役務 | 体感導入期間 |
|---|---|---|---|
| 単体オンライン診療SaaS | 予約〜ビデオ診療〜決済までを1製品で提供 | ベンダー選定・院内運用フロー設計・スタッフ研修 | 3〜4か月 |
| 電子カルテ連携型 | 診療記録・処方をカルテに自動反映 | 連携要件定義・カルテベンダーとの調整・移行テスト | 6〜9か月 |
| 地域医療連携基盤への統合 | 複数施設・多職種での情報共有を前提 | 関係医療機関との合意形成・セキュリティ審査対応 | 9か月〜1年超 |
この体感値は、僕自身が関わった、あるいは相談を受けた複数の導入現場の傾向をならしたものです。単体SaaS導入は工期の大半がベンダーとの契約・初期設定に費やされるのに対し、電子カルテ連携型は移行テストと並行して現行フローの棚卸しに時間がかかります。地域連携基盤への統合になると、技術的な接続作業自体は数週間で終わっても、参加施設それぞれの運用ルールの違いを吸収するための調整に数か月を要するというのが実務上の感覚です。
3. PMが直面する典型的な詰まりどころと対処
ある地域のクリニックでオンライン診療を導入した際、僕が耳にした話があります。システム自体は予定通り稼働したものの、初診患者の本人確認フローで受付スタッフと医師の間で認識がずれていて、稼働初日に確認作業が滞留してしまったというものです。原因は、指針が求める確認水準を「システムが自動でやってくれる」と現場が思い込んでいたことでした。実際には、画面越しに提示された保険証の写りを目視確認する運用がスタッフ側に残っており、その手順書がシステム導入時点で作られていなかったのです。稼働初日の外来終了後に急いで手順書を作り、翌週から運用を修正したそうですが、初日に混乱した患者対応の記憶は現場に長く残るものです。
もうひとつ、別のクリニックで聞いた話では、電子カルテ連携型を選んだにもかかわらず、処方箋発行のタイミングでカルテ側のマスタ更新が反映されておらず、薬剤情報の一部が旧データのまま表示されるトラブルが起きたことがありました。原因は移行テストの範囲が「診療記録の連携」に絞られていて、マスタ更新のタイミング差までは検証していなかったことです。この件は稼働2週間目に発覚し、以後1か月ほどはカルテベンダーと共同で日次チェックを行う運用に切り替えて収束させています。
この種の詰まりは珍しくありません。PMとして事前にすり合わせておくべき点を整理すると、次のようになります。
- 本人確認の最終判断者が誰か(受付・看護師・医師のどこで確定するか)
- 通信障害が起きた際の代替フロー(電話切替・予約変更の手順)
- 処方薬の受け渡し方法と、薬局側との連携タイミング
- 診療報酬の算定条件を満たしているかの事後チェック担当
- カルテ・マスタ情報の更新タイミングと連携システム側の反映確認方法
これらは技術的な要件ではなく運用上の合意事項であるため、要件定義書だけでなく、現場向けの手順書とセットで作り込むことが、稼働後のトラブルを減らす実務上のポイントだと僕は考えています。稼働後1〜2週間は、想定外の運用ズレが必ず何か1つは出るという前提で、日次の振り返りミーティングを組んでおくと収束が早まる傾向があります。
4. 必要スキルと向いている人
オンライン診療PMに求められる力は、人間力・職種経験・技術スキルの3つの軸で分けて考えると整理しやすくなります。人間力の軸では、医師の診療スタイルを変えることへの抵抗感に配慮しながら、必要な変更は変更として進める調整力が要ります。職種経験の軸では、医療機関の受付・医事課業務の実務知識があると要件定義の精度が上がりますが、必須条件ではなく、臨床経験者以外でも指針や診療報酬の勉強を重ねて対応している方を僕は何人も見ています。技術スキルの軸では、ビデオ通話基盤そのものよりも、電子カルテ・電子処方箋・オンライン資格確認システムとのAPI連携要件を理解できることが評価されやすい傾向にあります。医療情報技師やITストラテジストといった資格は必須ではありませんが、面談で制度理解の裏づけとして触れられると話が伝わりやすくなる、という体感もあります。
向いている人を一言でまとめると、医師・スタッフ側の業務実感とIT側の実装制約の両方に耳を傾けられる、橋渡し役に徹する調整型の実務者だと僕は考えています。逆に、システムの機能一覧を要件書に転記するだけで満足してしまうタイプは、稼働後の運用ズレを拾いきれず苦労するケースが多い印象です。
5. 未経験からの入り方とキャリアパス
この領域は電子処方箋・オンライン資格確認PMや電子カルテ標準化PMと隣接しているため、いずれかの経験があれば横展開しやすい分野です。未経験から入る場合、僕が勧めているのは次のような順番です。まず1〜2週間で厚生労働省の指針・診療報酬の告示・電子処方箋の運用ガイドラインといった公開資料を通読し、指針の要求事項と自分が想定する業務フローを対応表にまとめてみます。次に、実際の導入事例(自治体や医療機関が公表している導入報告など)を数件読み、稼働後にどんなトラブルが起きたかを収集します。この2つを面談前にやっておくだけで、「制度側の制約を理解した上で要件を組める」ことを具体的な事例で示せるようになり、評価される可能性が高まると感じています。求人の絶対数はまだ電子カルテ標準化ほど多くありませんが、地域医療構想の推進とともに、複数施設連携型の導入案件が増える兆しがあると僕は見ています。
(結論)
皆さんいかがでしたでしょうか。オンライン診療システム導入PMの仕事は、ビデオ通話という見えやすい部分の裏側で、指針・診療報酬・本人確認という制度対応と、受付から会計までの業務フロー再設計を同時に進める、地味だけれど骨太な調整の仕事です。稼働初日や稼働2週間目に必ず何かしらの運用ズレが出るという前提で手順書と振り返りの場を用意しておけば、混乱は最小限に抑えられます。制度理解と現場感覚の両方を積み重ねていけば、隣接領域からの参入も十分に可能な分野だと僕は考えています。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. オンライン診療システム導入PMには医療現場での臨床経験が必要ですか?
必須ではありません。臨床経験があれば要件定義の精度は上がりますが、厚生労働省の指針や診療報酬の算定要件を自分で読み込み、医事課・医師と対応表を作りながら進めているPMは、臨床未経験でも数多くいます。重要なのは制度側の制約を理解した上でIT要件に翻訳できることで、この点は面談でも具体例で示すことが評価につながりやすいと感じています。
Q. オンライン診療システムの導入期間はどのくらいかかりますか?
体感値としては、予約〜決済までを1製品でまとめる単体SaaS導入で3〜4か月、電子カルテと連携させる場合で6〜9か月、複数施設が参加する地域医療連携基盤への統合では9か月〜1年超が目安です。連携範囲が広がるほど、技術的な接続作業よりも関係施設との合意形成に時間がかかる傾向があります。
Q. 未経験からオンライン診療PMになることは可能ですか?
可能です。電子処方箋・オンライン資格確認PMや電子カルテ標準化PMと隣接領域のため、いずれかの経験があれば横展開しやすい分野です。未経験の場合も、指針・診療報酬告示・電子処方箋の運用ガイドラインといった公開資料を読み込み、制度制約を踏まえて要件を組める姿勢を具体的な事例で示せると評価される可能性が高まります。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。